歌うたいのココロ・18

  • 2008/12/27(土) 23:41:48

昨日の投稿時、不調に少し落ち込んでいたのですが、たくさんの拍手に励まされました。
無記名コメントは返信不要な方と見なさせていただいてましたが、やはり、お礼が言いたいと思いましたので。
本当にありがとうございました!

更新は大変ですが、書くの好きですし、すごく楽しいです。
やはり待っていてくださる方がいらっしゃると、嬉しいですから、早くしたいなと思います。
でも、焦る必要はなかったかな、と。
年内完結は、厳しそうですが、ごゆっくりお付き合いいただけると、嬉しいです(^-^)
この二人は大好きなので、完結後もいろいろと短編とか書きたいと思っています。

この話はBL前提です。ご注意ください。
カイマス
です。

今回も、マスター視点。
独り、カイトを待ち続けるマスター。
『歌うたいのココロ』 第18話   



 警察署からの帰り道の道程など、ほとんど覚えていなかった。ただただカイトの事ばかりを考えていて、気付いた時には、自宅の前まで戻って来ていた。これが帰巣本能というやつかと、ぼんやりと納得した。

 開け放たれたカーテンから弱い西日が差し、早い夕暮れを告げていた。
「あ…、洗濯物、取り込まないとな…」
 カイトがいないから。そう続けて零しかけた言葉を飲み込んで、重い腰を上げ、のろのろとベランダに出た。
 物干し竿には、同じサイズの服が二組干してあった。片方は俺ので、もう片方は…カイトの服だ。カイトのは、昨日も着ていた俺のお気に入りの一枚だ。似合うなと言ったら、とても嬉しそうに笑い、二人で出掛ける際など、好んで着るようになった。
 その柔らかい空色のシャツをそっと手に取る。寒風に晒されたひやりとした冷たさに、ふいに空しくなった。
 取り敢えず、洗濯物を回収したものの、畳む気力はなくしてしまい、乱雑に床に投げ出した。どうせ、元々片付けは苦手で、よくほったらかしにしていたんだ。問題ない。
 それに、クローゼットの中には、カイトの衣服が他にもたくさん入っている。それを開ける勇気が、今の俺にはなかった。

 テレビもネットも見る気がしなくて、居間のソファにごろりと横になった。ベッド代わりに、カイトがいつも寝ていたソファだ。
 目を閉じると、カイトが別れ際に見せた笑顔が瞼の裏に映った。カイトとのあまりにあっけない別れ方を、酷く後悔した。あれが最後だと知っていたら、もっとちゃんとした別れを……
 いや、知っていたとしても、俺はカイトを行かせただろうか。
 あの後、俺の血相に驚いた刑事の制止を振り切って、署を飛び出し、あの白いロングコートを探した。後を追って来た刑事に、パトカーで出発したから無駄だと告げられて、己の無力さを痛感し、その場にしばし立ち尽くした。
 今の俺に出来ることと言えば、今夜カイトがちゃんと帰って来ることを祈ることくらいだった。

 何もやる気がせず、そのままソファでぼんやりとしていたが、昼に軽く食べただけだったので、胃腸が文句を訴えた。
 空腹感に堪えられず、何かないかと冷蔵庫を覗くと、カイトが夕食用に用意してくれたらしい手作りのハンバーグと野菜スープがあった。
 ハンバーグは、カイトと二人でよく作ったメニューだ。
 ふと壁に視線をやると、並んで掛けられた白黒二対のエプロンが目に止まった。いろんな話をしながら、楽しく二人で料理を作った思い出が蘇る。レパートリーが和食中心の俺に、いろいろと料理を教えてくれたりもした。
 米を仕掛けようかと炊飯器を見るとほぼ同時に、炊飯完了のメロディを鳴らした。これもカイトがセットしていてくれたのか。まるで、俺が空腹になる時間を見越していたかのようだ。
 いい色に焼けたハンバーグを囓ると、香辛料を控えた優しい味がした。『ハンバーグには醤油』派の俺の好みの味だ。細かい好みも全部把握してくれていて、それでいて、好き嫌いは許さない奴だった。
 楽しかったことや、悲しかったこと、喧嘩したこと、食べ進めながらも、様々な思い出がとめどなく溢れてきた。ふいに目頭が熱くなり、口の中に苦い塩味が広がる。
 カイトの声が、無性に聞きたくなった…。

 音もなく居間の時計が12時を刻んだ。
 もうすでに、最寄り駅の終電の時間は過ぎている。住宅街の真ん中にあるこのアパートの周辺は、娯楽施設もないので、この時間帯には出歩く人影もまばらで、ひっそりと静まりかえる。
 カイトは、まだ、帰って来ない。
 11時過ぎに、携帯に見知らぬ電話番号からの着信があった。カイトからかと、慌てて取ると、ただの酔っぱらいの間違い電話だった。何度もしつこく掛けてくるので、煩わしくて電源を落とした。

 午前3時を過ぎた。
 もはや諦めるべきだろうか、そんな考えが何度も頭を過ぎったが、それでも、淡い希望を捨てきることはできなかった。睡眠不足で、激しい頭痛が正常な思考力をさらに奪っている気がする。
 このまま寝ずに待っていれば、カイトが玄関の扉を開けて、今にも帰って来るように思えた。

 朝だ。
 爽やかな小鳥のさえずりが窓の外から聞こえ、うっすらと空が白み始めた。淡々とした時間の経過が、これほど早く残酷だと感じたことはなかった。容赦のない朝の光が、カーテンの隙間から部屋に差し込んだ。
 夜が、もう完全に明けてしまった。

 カイトは、帰って来なかった。

「……嘘だ…」
 あんなに簡単にいなくなるはずかない。『いってきます』とあいつは言ったんだ。それならば、『ただいま』と言わなければならないはずだ。別れの言葉は、まだ交わしていない。『さよなら』の一言さえも、まだ交わせていないんだ。
 覚束ない足取りで、玄関の扉の前まで歩いていき、その場にへたり込んだ。
「カイト……っ」
 あまりに無力な自分が悔しくて悲しくて、爪が食い込むほど拳を固く握りしめた。昨日、あんなに流して枯れ果てたかと思っていたのに、また涙が溢れてきた。身体中の水分が涙で流れ出してしまうんじゃないだろうか。いっそ、そうなってしまえばいい。
 きっともうこんなに泣けない。カイトがいなければ、俺はまた独りきりで殻に籠もったまま、いずれ朽ちていくだろう。
 カイトの存在は、自分で思っていたよりも、遙かに大きくなっていたことに、俺は今更気付いてしまった。
 警察に出頭なんてしないで、カイトを連れて、何処か遠くへ逃げてしまえば良かった。警察相手に、そんなことできるはずもないのに、後悔の念が心を埋め尽くした。

 ふと、誰かが廊下を駆けて来る音が聞こえた。こんな早朝に、珍しい。あまり物音は伝わらない造りだから、よほど急いでいるのだろうか。
 ロック解除の微かな音がして、目の前のドアノブが、外から回された。
 その扉が開け放たれるのを、信じられない気持ちで言葉も忘れて、見守った。

「…マスター!ただ今、帰りました…っ」
 扉の向こう側には、眩しい朝日の中、微笑みを浮かべた青い髪の美しい青年が、息を切らして佇んでいた。
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あとがき
無気力なマスターが、書いていて悲しかったです。
次回は、カイト視点。
所有者とのやり取り、様々な真相。
第19話



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今晩和。

毎日、楽しみに読ませていただいてます。

どうなるんだろうと、カイトがちゃんとマスターの元に帰ってきてくれるんだろうかと、ドキドキでしたが、「ただいま」を聞いて安心いたしました。

毎日更新は本当に大変だと思いますが、マイペースに頑張っていただければと思います。

後、Sweetest Homeのちびカイトが大好きです!!

夜分にコメント、失礼いたしました。続きを楽しみにしております。

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