クッキーとマフラーと貴方

  • 2009/03/15(日) 01:17:06

お久しぶりの小説更新です。
もうしばらく忙しいの、続いてしまいそうですが、たまの息抜きに、小説更新はしていきたいと思います。
忙しい合間に、ネタだけはちまちま浮かんでいたので、なんとか描き上げられました。

連載小説の「歌うたいのココロ」の番外編です。
日付は跨いじゃいましたが、ホワイトデーのお話。
時系列はいつも通り、連載と連動していますので、カイト自覚済み、鈍感マスターはまだまだ何も…な状態です。

カイマスです。
BL設定ですので、苦手な方はご注意ください。

バレンタインがカイト視点だったので、どちらにするか悩みましたが、こちらも同じくカイト視点にしました。
いちゃいちゃしてる二人と、ちょっとしたサプライズ。
前半ブラックカイト。後半ホワイトカイトな感じですw

『クッキーとマフラーと貴方』



 今日はホワイトデーだ。
 バレンタインときは、自分には無関係なことだと、少し斜に構えていたが、予想外なことに、とても幸せな時間を過ごせることが出来たので、密かに楽しみにしていた。
 しかし、今、俺は記憶の隅に追いやって見ないことにしていたあることが原因で、面白くない気分になっていた。
 キッチンを見遣ると、マスターは相変わらず、不慣れな製菓作業に奮闘している様子だ。先日、初心者でも作りやすいからと教えたカップケーキだろう。
 まったく。本当に、面白くない。正直なところ、若干苛立ちすら覚えている。
 何故こんなに不機嫌なのかというと、バレンタインデーにマスターがもらってきたチョコレートが原因なのだ。
 俺の為だけに作ってくれているのならば、とても嬉しいのだが、きっとあの中にはそのお返しも入っているのだろう。
 俺の片想いだから仕方ないというのはわかっているのだが、知りもしない女性へのお返しと一緒にされてしまうのは、なんとも言えないもやっとした気持ちになってしまう。
 例え、他に俺に特別に用意してくれるものがあったとしても、あれだけ一生懸命作ったものを、ただのお礼だとしても、自分以外のましてや、マスターに好意を抱いている人間が口にするなんて、想像するだけでも嫌だ。

「よし。カイトー、後は焼くだけだから、紅茶入れて」
「……わかりました」
 俺の微妙な間にも気付かず、カップケーキがうまくいったのか、にこにこと上機嫌なマスターは、白いエプロンを着けたままソファに勢いよく腰かけた。
「オレンジピール入れたから、多分美味しいと思うんだ。ああ、早く焼けないかな」
「お返しを渡す前に、味見なさるんですか?」
 普通に自分も食べようとしているマスターに、わざと嫌みっぽく尋ねてしまったのは、不可抗力だろう。
「いや、二個作ったから、一緒に食べるだけだよ。カイトもそうだったじゃないか」
「え? バイト先でもらったお返しはないんですか?」
「ああ、ないない。俺、お返しは基本的にしないことにしてるから」
 義理堅いマスターらしくない言動に驚いた俺に、マスターは苦笑しながら理由を説明してくれた。
 曰く、昔「なんでか、わからない」が、バレンタインのお返しをした相手にストーカーされて、大変な目にあったことがあったらしい。それからは、「お返しはできないけど、それでもいいなら」と明言しているらしい。
「ああ……、なるほど。そういうことだったんですね」
「そういうこと。……まあ、ちょっと申し訳ないけどな」
「じゃあ、俺だけにお返しをくださるんですね。ありがとうございます」
「しっかり味わって食えよ」
 礼を告げながら笑いかけると、はにかみながら軽口を叩くマスターを見て、幸せで胸が満たされる。
俺一人だけと知って、途端に心が軽くなった。
 我ながら単純なことだ。
 それにしても、鈍いマスターのことだから、何かしでかしていないか、少し不安だったのだが、予想的中というかなんというか……
 そう言っていても、チョコレートを3人からもらうなんて。ますますバイト先のことが気がかりになった。

「マスターのケーキが焼ける前に、俺のお返しをしますね」
 そう言って、早朝に焼いておいたクッキーを一枚取り出して、マスターの前に翳してみせた。
「俺からは定番ですが、クッキーです」
「ありがとう。……って、一枚だけ?」
 どう見ても、俺が他に何も持っていないのがわかったのだろう。マスターは、不思議そうな顔をした。
「いいえ、他にもありますよ」
 でも、と言葉を途切れさせて、クッキーをマスターの口元まで持って行く。
「お返しですから。マスター、口を開けて?」
「えっ?い、いや、自分で食べるから」
「チョコは、あの時、貴方から食べさせていただきましたから……ね?」
 お前が勝手に食べただけだろう、と言いたげな眼差しで、憮然と俺を睨んでいたが、物がクッキーで親指と人差し指に挟まれた状態だということが、妥協点となったのだろう。
「……一枚だけだからな」
 しぶしぶといった風情でそう呟くと、マスターは俺の手のクッキーを口にした。
 そこまで深く考えての行動ではなかったのだが、目を伏せてクッキーを口にした瞬間のその光景は、なんとも倒錯的で少し後ろめたい欲望が刺激された。そのまま俺の指をその唇に挿し入れたいなどと、できもしない妄想が頭を過ぎった。

 うまく焼けたケーキを二人で食べ終わったあと、一息吐いたマスターから不思議な質問がなされた。
「なあ、カイト。俺の誕生日って、知ってる?」
「はい、もちろん。マスター情報として登録されていますから」
「今日、なんだけど」
「ええっ?」
 唐突に告げられた内容に焦った。
「あの、俺の中のデータでは、明日3月15日になっているんですが……」
 マスター情報は、国の戸籍情報からのものであるから、事実との相違はまずあり得ない。でも、マスターが嘘をついているようにも見えない。
「ああ、やっぱりそうか。戸籍上は確かにそうだよ。でも、俺が生まれたのは20年前の今日なんだ」
 戸惑う俺に、マスターは淡々とその真相を教えてくれた。
 マスターが生を受けた年の前年の3月14日、母親の地元で大惨事が起きて、母親の友人、知人も多くの人々がその犠牲となったのだという。その事件は、ネット上でもすぐに見付かるくらい有名だ。
 そして、事情を産婦人科の医師に相談し、役所への出生届を一日ずらしたらしい。
 その家族にとって不幸の代名詞の日を、大切な息子の誕生日にはしたくなかったという、その想いからだった。
「本当に、ご両親から愛されていらっしゃいますね」
「うん……。この話は、高校を卒業したあとに、ようやく教えてもらったんだ」
 そっと頭に手を伸ばし、笑いかけると、硬い表情をようやく綻ばせて、マスターは少し残念そうに呟いた。
「じゃあ、マスターにとっても、やっぱり明日が『誕生日』なのですか?」
「ん。そうだな……。どうだろう、去年はしっくり来なかったけど」
 そして、俺の目をまっすぐに見詰めると、
「今年はカイトには、今日、祝って欲しいと思った」
 はっきりと、そう告げた。
「俺には……?」
 ふいに向けられたその真摯な眼差しに、鼓動がはねた。
「ああ、初めての俺の誕生日を祝ってくれるのは、お前がいい。カイトだけで」
「俺で、いいんですか……?」
「しつこいなぁ。そうだよ」
 気持ちと連動して激しく鳴る心臓の音が、五月蠅い。
 マスターからは何度も「特別な存在だ」と告げられてはいるが、そんな特別を俺にもらってもいいのか、と。
 戸惑いのままに口にすると、変な顔をしてるぞと、笑いながら髪の毛をぐしゃぐしゃと乱された。
「祝ってくれよ。……な?」
「はい、すみません。じゃあ、誕生日プレゼントお渡ししますね」
 実は、今週土日はマスターも家にいるので、昨日までにすでに作り上げて、こっそりと準備していたのだ。
「マフラー……?」
 いそいそと箱を開けたマスターは、その中にあったプレゼントを手に取って嬉しそうな声をあげた。
「はい、お誕生日おめでとうございます。今の時期、まだ冷えますし」
「やっぱり水色なんだな」
 可笑しそうに笑いながら、手にしたそれをくるりと首に巻いてみせた。
 春用の薄手のマフラーだ。春先の朝夕の冷え対策にも、夏の冷房の効いた大学の講義室などでも、長く使ってもらえるように、と編み上げてみた。
 春夏のマスターの服との取り合わせで、一番合いそうな色が、偶然寒色系だっただけなのだが、そう指摘されると、なんとも気恥ずかしいものがある。
「お嫌ですか?」
「いや、お前と同じ色って、うれしいよ。ありがとな」
「そう言ってもらえてよかったです」
「やっぱり本当の誕生日っていいな。来年も、お前とは今日がいい」
 しみじみと噛み締めるように、そう零すマスターの表情を見て、俺も今まで考えたこともないことを思った。
「はい。じゃあ、今度、俺の本当の誕生日祝ってくださいね?」
「え? ああ、そうだよな。先月のは、KAITOが発売された日ってだけだしな。それで、いつなんだ?」
 期待の眼差しに、ちょっとした悪戯心が湧いた。
「今は秘密です。そのときにお教えしますよ」
「ええっ?いや、それは困るから。だって、ちゃんとプレゼントとか準備できないだろ?」
 慌てる様子が微笑ましい。特に何も考えていなかったが、何か企もうかと思った。
「ふふ、大丈夫ですよ。前日にはお教えしますから」

 ちゃんと俺も、素敵なサプライズを準備しておきますね。

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あとがき
「部屋とワイシャツと私」が浮かんだ方、お友達になりませんか?
特に意図せず決めたんですが、改めて見て、なんだかゴロがそんな感じだな、と。
どのKAITOにも本当の誕生日があると思うんです。
製造日というものですね。

誕生日というのは、実際こんな風に別の日にすることがあるそうです。
私の友人も一人、実は一日違うらしいと言っていました。
どちらが大切かは、変えた理由にもよるし、人それぞれだと思いますが。



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